<<玉名 「桃苑」 熊本 「こだいこ」>>




熊本県北端、玉名より南へ一時間ほど車を走らせると、熊本県の県庁所在地たる熊本市へと辿り着く。
70万人超の人口数を抱える政令指定都市である。
豚骨ラーメンの足跡を辿る我々の旅の二日目はここで宿を取る事にした。

九州への到着日と違い、朝から各食間インターバルを取れる中日は、凡人の胃袋しか持たない我々には実にありがたい。
ここ熊本市でも、宿に荷物を放り込んでから夕食まで、市内の史跡を巡る時間の余裕に恵まれた。

熊本市と言えば、まずは市のランドマークでもある熊本城。
日本の三名城にも数えられるこの城は築城400年を超える古城で、
名士・加藤清正により築かれ、その後加藤家の改易から細川忠利が入城、熊本藩を治めたその要地でもある。
西南戦争では政府軍の重要拠点であると同時に、西郷軍の重要攻略目標で、これは日本の戦史上最後となる攻城戦であった。


薄暮に聳える熊本城 銅像になるのが夢です 紙幣も捨てがたいけどね!



玉名「大輪」で記した西郷小兵衛は、西郷軍によるこの熊本城攻撃に参加した後に、玉名高瀬川の戦いで戦死している。
我々は、西郷小兵衛の終生を遡る形で熊本市に入った事になる。


残念ながら熊本城は既に開園時間を過ぎ、我々は城周辺を散策するに留まった。
城の東に位置する高橋公園緑地には、当時の九州を駆けた男たちの銅像が立ち並ぶ。
我々の豚骨ラーメン史探訪の旅程と彼らの人生が交差する、なんとも奇妙な瞬間である。


初の食品サンプル掲示 熊本城を眺めながら



史跡を周遊するうちに腹もこなれ、熊本市における豚骨ラーメン史を辿る本題へと歩を戻す。
熊本市のラーメンといえば、首都圏でも「桂花」等で知られる「熊本ラーメン」が有名だ。。
この熊本ラーメンも、玉名ラーメンと同様に久留米から移転した玉名「三九」に大きく影響を受けている。

熊本「こむらさき」は、そうした熊本ラーメンを代表する老舗である。
創業者の山中案敏氏は、当時玉名に出店した四ヶ所氏の玉名「三九」が美味しいとの評判を聞き、
実際に玉名へ食べに出かけ、そして衝撃を受ける。
昭和29年に、ついに山中氏は「三九」従業員と共に熊本市内にラーメン店を開業。
この店は数ヶ月で閉店してしまうが、同年再びラーメン店をオープン、屋号を「こむらさき」として今に至る。

開店当初は玉名「三九」の味を真似ていたが、もう一味の研究を重ねる中、
ニンニクチップを加えるアイデアへ思い至り、これが今の熊本ラーメンの雛形となった、と言われる。
玉名ラーメンとのニンニクチップの扱いの違いは、店員から投入の可否を問われる点で、これらの事から察するに、
ニンニクチップに関しては豚骨ラーメンの伝播の順とは逆に、熊本市から玉名へ伝わった可能性が考えられる。
この「こむらさき」は新横浜ラーメン博物館の開館当初から出店しており、関東でも都内を中心に知名度も高い。


白と黒の織り成すコントラスト 今回は地元の人に撮ってもらいました
(※不審者と間違われる)



熊本「こむらさき」は市内に3つの店舗を展開しており、本店は中央区上林町に位置する。
店舗外観は例によって老舗と言うより前時代的なチェーン店の趣である。
先客もおらず、カウンター席を素通りしテーブル席へと案内される。
店内は明るく清潔で、温かみのある内装と相まって非常に落ち着く空間となっている。

オーダーはラーメン(550円)。
福岡エリアから変わらず値段は良心的だ。

到着した一杯の見た目は、熊本ラーメンを地で行く絵。
完全に乳化したクリーミーな豚骨スープに、チャーシュー、きくらげ、青ネギ、そして強めに焦がしたニンニクチップが乗る。
スープは多少の獣臭がするものの、博多・久留米エリアに比較すればライトボディーで上品な味わい。
久留米、玉名の豚骨ラーメン店と異なり、熊本ラーメンでは営業スープは使い切り翌日に継ぎ足さない。
いわゆる「呼び戻し」の手法を用いないわけだが、これが、熊本ラーメンの豚骨スープがあっさりとしている理由でもある。
麺は低加水の中太ストレートで、茹で加減も程よい。
都心部では「桂花」に代表される熊本ラーメンに期待する味と、そう変わり無く安心して食べ進める事が出来る。
揚げたニンニクチップの強めの焙煎香も、実に熊本ラーメンらしさを引き立てている。

熊本エリアでも、伝説の老舗「三九」の影響力をまざまざと実感させられることになった。
その時系列と共に、ラーメンの骨格が現代風へと近づいていく様も興味深い。
ルーツを追う旅を九州へ限定しなければ、果たして日本のどこまで繋がっていくことだろうか。
今は果たせぬ夢なれど、医者に止められる前までに辿ってみたいものだ、と
そんなことを考えながら、次の一杯を求めて夜の熊本街を歩み進むのであった。




「こむらさき 本店」
熊本県熊本市中央区上林町3-33
営業時間 11:00〜19:30(L.O.19:15)
定休日 火曜日
駐車場 無し



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