<<宮崎 「こむらさき」 鹿児島 「のぼる屋」>>



車内に宮崎神宮の交通安全護符を付け、次の老舗へと向かう。
宮崎市内での移動となるため僅かな距離だが、宮崎南バイパスを彩るヤシの木や広い片側三車線道路が
まるで海外のような南国気分を醸し出しているのが印象的だ。
気候も、極寒の博多エリアと比べるとずいぶんと温かい。

宮崎最古のラーメン店とされる老舗「こむらさき」への来訪は果たしたが、
北九州他県からの豚骨ラーメン伝播という繋がりの点では、接点に乏しい。
福岡エリアから伝播した豚骨ラーメン史の足跡を辿る旅は、宮崎に至ること無く途切れてしまうのだろうか?


いまさら交通安全祈願 海外リゾート地のよう 「きむら」



さにあらず、ここ宮崎にも伝説の「三九」に関る老舗が存在するのだ。
それが昭和28年創業の宮崎「喜夢良(きむら)」である。
「喜夢良」の創業者は、名を木村一という。
覚えているだろうか?久留米「三九」に衝撃を受け、熊本へ豚骨ラーメンを伝えた三人衆のひとり、
熊本「松葉軒」の創業者・木村一氏その人なのだ。

木村氏は、熊本「松葉軒」の開業翌年に、ここ宮崎へ「喜夢良」を開店させた。
「喜夢良」は今や宮崎を代表する有名なラーメン店の一つだが、確かに「三九」の系譜を受け継いだ老舗なのである。

「喜夢良」は宮崎市内に幾つか店舗が存在するが、本店は今は無く大淀店と北店が営業を続けている。
我々が向かう大淀店は、南宮崎駅から程近い220号線沿いにあり、宮崎「こむらさき」の近所と都合が良い。
店外に駐車場はあるが、人気店らしく殆どが埋まっており、辛うじて1台だけ空いたスペースへ車を滑り込ませる。
いよいよ豚骨ラーメン史探訪記も佳境だな、と感慨深い思いを抱きつつ店入り口へと回ると
存外に新しく綺麗な店舗であることに驚かされる。

調べてみると、この大淀店は平成8年の開業。
昭和28年に創業した「喜夢良」本店はこの地で人気を博し、昭和56年に三代目の手により一の鳥居へ支店を出す。
さらに平成8年に大淀へ、平成15年には一の鳥居店を北店へ移転開業した、とのこと。

宮崎南部と北部へ支店を持つ事は「喜夢良」当初からの夢であったようで
当時、三代目は自転車で出前を続け、その奥さんは赤ん坊である今の四代目を背負いながら必死に店を守ったとされる。
本店が残っていない事は残念だが、「喜夢良」の味は確かにここ大淀店に受け継がれている、というわけだ。

一説には、「喜夢良」が宮崎で最初の白濁豚骨ラーメンを出す店、とされている。
であれば宮崎「こむらさき」は宮崎初のラーメン店ではあるが、当初は乳化していなかったことになるが果たして・・・?


店員さん多め 漬物食べ放題 メン喜夢良



赤い暖簾をくぐり店内へ入ると、そこは明るく清潔な今風のフランチャイズ店的雰囲気。
正面カウンター席の左右にテーブルスペースがある。
着席し一息ついてから、ラーメン(620円)を注文する。
卓上には、大根の漬物やニンニク醤油、胡椒などが並んでいる。

程なくして到着した一杯は、食欲をそそる色合いの乳化したスープに、モヤシ、青ネギ、メンマ、
そしてチャーシューが彩りを加えている。
白い丼に朱色で描かれた「きむら」の文字も上品だ。

麺は中太ストレートで、加水率は低くサクサクと口当たりも良い。
スープの持ち上げも良いが、調味としては少々大人しめに過ぎ没個性とも言える。
美味しくはあるが、万人受けを狙ったような無難さだ。
しかし、箸休めの大根の漬物や、ニンニク醤油を加える事でその表情は大きく変わってくる。
物足りないと思う方には、是非そうした食べ方をお奨めしたい。
元となる調味の素性が良いだけに、こうした変化を受け止める懐の深さがあるのだろうか。

熊本「松葉軒」との味の点での共通性は特に見出せなかったが、
北九州・小倉「三九」直系の「来々軒」から始まり、ここ宮崎の「喜夢良」まで
時代と人が紡ぐ豚骨ラーメン史の道程が終着したのだ。

最後の麺を啜り、箸を置いた。
東京へ戻る飛行機の出発までにはまだ時間があり、隣県鹿児島でも老舗ラーメン店を巡る予定はあるが
こと「豚骨ラーメン史探訪記」については、ここ宮崎で幕を閉じることになる。

「天に星  地に花  人に愛」
西郷隆盛が好んで揮毫した「敬天愛人」の一節。

「道は天地自然の物にして、人はこれを行うものなれば、天を敬するを目的とす。
天は我も同一に愛し給ふゆえ、我を愛する心を以て人を愛する也」

食す人を想えばこそ、何よりもまず自分を愛し
天を敬うその先に、天地自ずからなる道が開けている。
九州の地にに刻まれた豚骨ラーメン史の「道」も、そんな人々の為しえた「人の愛」に違いないのだ。




「喜夢良」
宮崎県宮崎市大字恒久字小橋4942-2
営業時間 11:00〜21:30
定休日 水曜日
駐車場 有り



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