小倉 「来々軒」>>




九州豚骨ラーメンのルーツを辿る探訪記として、その記念すべき1杯目を飾るのはラーメンではなく「長崎ちゃんぽん」である。

いわゆる白濁した豚骨ラーメン誕生のキッカケは諸説ある中で多く目にするのは「スープの調理中、誤って豚骨を炊き過ぎ乳化白濁してしまった」といった失敗からの偶然である。
しかし、そうしたケースは豚骨を使ったラーメン店であれば地域を問わず全国各地で起こり得たはずだ。
然るに、何故九州がその発祥地となり得たのか。

ここに、ラーメンより遥か以前からこの地に受け入れられていた「長崎ちゃんぽん」の存在があったのではないか、と思う。
中華系渡来人「陳平順」により、明治32年に長崎で産声を上げた「支那饂飩」=「ちゃんぽん」は、白濁乳化した動物系出汁を使う汁麺として今に至るまで九州の人々に受け入れ愛されてきた。
つまり、九州の人々には「ちゃんぽん」という白濁した汁麺文化の上に、 既に「豚骨スープ」を受け入れる事のできる懐の深さがあったのではないだろうか。
豚骨ラーメン直接のルーツでは無いにせよ、その誕生に寄与した汁麺「ちゃんぽん」を探訪記最初の一杯として記録しておきたい。


記念すべき第一歩 長崎空港 空港特製ちゃんぽんが迎える 食べても無いのに写真を撮る我々



東京発長崎空港着の便で九州の地に降り立った我々はレンタカーを借り、まずは長崎市内へと向かった。
目指すは「ちゃんぽん」発祥の店とされる長崎「四海楼」、歴史を語る上で外せない老舗の名店である。
前述した「陳平順」が長崎の地で同郷華族のために開いた中華料理店は、今は趣を変え巨大な施設として長崎湾を臨むこの地にそびえ立っている。
余談ではあるが空港から市内への道中には、かの「リンガーハット一号店」があり、「ちゃんぽん」を食べ歩くならこちらを訪ねてみるのも面白い。
胃袋に余裕の無い我々は、店前で写真だけ撮って立ち去るのだった・・・

「四海楼」の建物は、中華の趣を感じさせながらも長崎の町並みに調和する事を目指した個性的な建築物である。
正面階段を上がった2階には「ちゃんぽんミュージアム」なるものがあり、「四海楼」の歴史や沿革を訪ねる事ができる。
3階から5階までがレストランスペースだが、3〜4階は多人数・多目的スペースであり一般的な訪問客の食事は5階の展望レストランに通されることになる。


まさにちゃんぽん御殿 観光客まるだし 楼海四」



訪問したのは平日だが、昼時ということもあり観光客や修学旅行生等で盛況であった。
店内は明るく、開放的な窓からは長崎湾を一望することが出来る。
メニューには「ちゃんぽん」の他に、出前で使われたという「蓋付きちゃんぽん」や、常陸宮殿下、現皇太子殿下も訪れになりお二方ともお代わりを召されたという「皿うどん」などがある。
豚骨ラーメン探訪の旅であるので、ここは伝統ある汁麺「ちゃんぽん」(997円)をオーダーする。

出された一杯は、外見的には錦糸卵のトッピングが特徴的ながらも、「ちゃんぽん」といえばリンガーハットを想像する我々の目にも違和感の無いオーソドックスなものであった。
「ちゃんぽん」の例に漏れず麺はヤワいが、シャキシャキ感を失っていない野菜と共に食べる優しいバランスが安心感を誘う。
豚肉、海老、イカ、モヤシ、キャベツ、椎茸、カマボコなどの具材は香ばしく炒められ、煮含められたそれら海鮮や野菜の旨みがスープに溶け出しており、旨い。
良くも悪くも想像したより無個性な一杯の中で、このスープの香ばしさと濃厚さが持つ魅力は、老舗という名声だけに頼らない光る個性であると思う。
この後、立ち寄るべき予定の店が多く控える中、ついついスープを飲む手が止まらない我々であった。


盛況な店内 元祖ちゃんぽん ちゃんぽんの母なる海



「四海楼」の周辺には、大浦天主堂やグラバー園等の異国情緒を漂わせる歴史の遺産が数多くある。
外の海の空気を感じさせるここ長崎には、それら観光資源に勝るとも劣らない豚骨ラーメン史のルーツに関わる一杯が、確かにあったのだ。
我々は、そう思い込むことで胃袋に感じる詰め込まれた重みを納得させ、レンタカーに乗り込み一路北を目指すのだった。





「四海楼」
長崎県長崎市松が枝町4-5
095-822-1296
営業時間 11:00〜15:00
       17:00〜21:00(20:00LO)
定休日 不定休(主に火曜)
駐車場無し





top 小倉 「来々軒」>>

inserted by FC2 system